全塗装の作業工程

全塗装と言っても、お安い全塗装から新車が買えるほどの全塗装まで、作業内容やクルマの状態によって費用は様々です。なぜなら、まったく同じ状態のクルマというのはありませんし、お客様が希望される内容も様々だからです。極端な例ですと、実際には過去27年で一度しかありませんでしたが、エンジンルームの中まで同色で塗るのであれば、エンジン・ルーム内の部品をすべて外さなくてはなりませんので、完璧を期すれば、気が遠くなるほどの費用が掛かります。

個人的な見解でいえば、すでに10年以上経過したクルマであれば、その時点で下取りであれ何であれ、再販価格は限りなくゼロに近いでしょう。それは再塗装して7-8年、あるいは10年乗ったあとでも同じです。トランクの中やエンジン・ルームの中は、気にしなければ良いだけの話で、コスト・パーフォマンスから言えば、そこまでやらなくても、と思います。

弊社の全塗装は、服で言えばプレタポルテではなく、1点もののオーダー・メイドのような性格が強い作業内容です。色にしても、既成のメーカー色ではなく、ご自分の好きな色を選ばれる方が殆どです。メーカーは平均的に好まれる色を選びます。しかし、それが必ずしも自分の好きな色かというと、そうではないことのほうが多いですからね。同じ赤でも、好きな赤もあれば、嫌いな赤もあります。

最初に、お客様のクルマを拝見し、どのような作業が必要かを判断します。同時に、お客様のご希望と予算をお聞かせ戴き、その中で最良と思われる方法を選びます。誰しも予算あっての作業ですので、理想的な作業を行えばいくら掛かるという金額もありますが、反対に、その予算であれば、どこまで出来るのか、という作業方法もあります。

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作業は、ボディに付いているドア・ハンドル、モール類、バンパーなどの外装部品を外すことから始まります。丁寧作業をご希望の場合は、更に、全ガラス、ドア、ボンネット、トランク・リッドを取り外します。取り外したほうが、より丁寧な作業が可能になるからです。

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次に現在の塗装の上から紙やすりで丁寧に歪みを抜いていきます。プレスの圧力のためでしょうか、金型のせいでしょうか、メーカーによっては新車でもパネルに凹凸がある場合もあります。それがイヤなら、そのクルマに乗らなければ良いだけのことですが、せっかく全塗装するのなら、そういった歪は取っておきたいものです。ヘコんでいる部分は薄くパテを乗せて修正します。これが全作業の中で最も神経を使う工程ですし、時間も掛かります。塗装の状態によっては、部分的剥離、もしくは総剥離が必要になる場合もあります。鉄板が出てしまった部分にはシッケンズのEPを吹きます。プライマーですが水を殆ど通しませんので、強力な錆止めにもなります。

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その上からホワイト・サーフェサーを吹きます。塗装する色によってはピンク・サーフェサーなど、色の付いたサーフェサーを吹きます。パテや下色の違いでムラが出来るのを防ぎ、濁りのないスッキリとした色にするためです。

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細かい歪みを抜きながら、下地の出てしまった部分には、さらにサーフェサーを吹き、再び研磨します。

それを良く乾燥させます。通常はブースの中で45分間程度熱を加え、すぐに塗装しますが、弊社では熱を加えてから、下地とサーフェサーが落ち着くまで、1週間程度放置し、さらに熱を加えます。古いクルマで総パテだった場合など、下地の状態によっては1ヶ月以上放置する場合もあります。

その後はサーフェサーの表面がピカピカになるまで研ぎ出します。この作業は、水を含んだ雑巾で面を濡らし、光の反射で歪を見ながら、その歪を抜いていきます。時間が掛かりますし、冬にはつらい作業です。しかし、丁寧な、良い下地は、塗装の仕上がりを決めると言っても過言ではありません。特に、今の塗料は塗膜が薄いため、悪い下地の上に、いくら良い塗装をしても、良い仕上がりにはなりません。時間の無駄のように思われるかもしれませんが、良い仕上がりのためには時間が必要なのです。一般的なショップでは効率が優先されますので、この時間が取りたくても取れないケースが少なくありません。

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良く乾燥させたあと、ようやく「色」を吹きます。ソリッド・カラーで鏡面仕上げをする場合は、クリアーを吹く前に「色」を研ぎ出します。また、戦前のクルマはクリアーを掛けると違和感がありますので、色を厚く吹いて、色そのものを磨き出して仕上げます。ピカピカではなく、しっとりとした肌になります。何年か前にお客様が某コンクールデレガンスに出品され、賞をいただいた戦前のクルマは、全体をこの方法で仕上げました。

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特殊な仕上げ以外は色の上からクリアーを吹きますが、あとでガン肌(表面の小さなデコボコ)を取ったり低くするため研磨しますので、通常より1回から2回、余分に吹きます。最近の塗料は塗膜が薄いのです。

ブースで熱を加えて乾燥させ、ひと晩置いて、遠赤で焼いてさらに乾燥させます。クリアーを厚く塗る場合は、まず2回吹いて乾燥させ、翌日にその面を研磨し、さらに2回吹きます。

クリアーが完全に硬化してから、表面を研磨してガン肌を落としたり、低くします。これにより、直線のものが直線に映り込む、スムースな表面が出来ます。鏡面仕上げの場合は砥石で擦ってガン肌を完全に取ってしまいます。1日頑張って擦って磨いても、せいぜいパネル1枚か1枚半ぐらいです。少し古いロールスなどの高級車は、新車のときから鏡面でした。再塗装した部分だけ、微妙にガン肌が残っていたり、面に歪があるんじゃ悲しいですからね。

むかしの塗料は乾燥時間が長かったため、乾燥中にガン肌の山が低くなりましたが、いまの塗料は乾燥時間が短いため塗料が伸びず、ガン肌が立ったまま乾燥してしまうのだそうです。最近のクルマは新車時のガン肌が粗いため、それが当たり前だと考えておられる方も多いようですが、少し古い車や高級車には似合いません。作業自体はノウハウさえ会得すれば別段ムツカシイことではありませんが、手間が掛かってしまいます。

ここまでの手を掛けなくても、ガン肌の低い、あるいは鏡面風の塗装面にすることは可能ですし、多くの板金・塗装工場では、そういった方法を取っているとも聞きますが、弊社ではやりません。何年かすれば塗膜にクラックが入るということを経験しているからです。

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それから外した部品を付けていきますが、せっかくボディがキレイになったのですから、部品も新しいものを使ったり、古い部品をキレイにしてから付けなくてはなりません。部品を取り付けるのにプラスティックのピンを使っている場合は、再使用できないことが殆どです。こういったコマゴマした作業は、実際にやってみるとお分かりになられると思いますが、結構、手間仕事というか、時間の掛かるものです。新品部品が入手できる場合は、新品部品を使ったほうが安くつくことが殆どです。

弊社の全塗装は、こういった手順で行いますが、作業時間の大半は「色」を掛ける前の下地作業や部品の脱着に費やします。一般的に皆様が想像される「塗装作業」は、時間数で言えば僅かな割合です。また、一度ブースに入れますと、弊社のやり方だと最低でも1週間はブースを専用してしまいますので、一般的な塗装ショップでは、なかなか出来ない工程です。技術的に出来ないと言うよりは、ビジネス的に出来ないと言ったほうが良いのかもしれません。

費用は、オーナーがどのような仕上がりを希望されるのかによって作業内容と作業時間が大きく変わりますので、一言で「おいくら」と申し上げるのは誤解の元だと思いますが、板金作業や部品代を除いた標準的な部品脱着+下地/塗装作業だけで言えば、概ね80万円から150万円程度です。乾燥する間の時間は除き、実働時間だけで、簡単なものでも100時間程度は掛かります。古いクルマで総パテだと、250時間以上掛かったこともありました。世の中には1週間、なかには2泊3日で全塗装されるショップもあるやに聞き及びますが、少なくとも弊社では、ひっくり返っても、そんな真似はできません。

費用のうち、サフや塗料等の材料費は、下から上までシッケンズを使いますと、ざっくり言って一般的な塗料の倍ぐらいでしょうか。しかし、10年後の状態を考えますと、金額以上の差はあると思います。同じシッケンズでも、選ぶ色によって塗料の金額は数万円程度違ってきます。

旧塗装のクリアーにヒビが入っていたり、下地や地色にヒビが入っていると、その上からいくら良い塗装をしても、まったく意味はありません。仕上がった瞬間はツルツルに見えても、1年か2年したら、そのヒビが新しい塗装の表面に出てくるからです。経験が無いため自分の目で期間を確認したわけではありませんが、業者の方がおっしゃる「ぶっ掛け塗装」だと、賞味期限は3ヶ月程度だそうです。今まで見た最もヒドイものは、テープで切った境目にガムテープを貼って剥がすと、塗料がペロリと剥がれました。それも超がつく高級車でした。その上に塗装しても意味はありませんので、全塗装は諦めるか、それをすべて剥がして全塗装しなくてはなりません。安価な全塗装をされますと、あとで高くつくことも往々にしてあります。そんな塗装で高く売るぐらいなら、塗装せずに、その分値段を引いてくれ、って話ですよ。

長く乗ろうとお思いになられるのなら、旧塗装がダメになってからでは手遅れです。もちろん、ヒビが無くなるまで削り込むか、総剥離すれば可能ですが、掛かる時間、すなわちコストはグンと跳ね上がります。言い換えれば、まだコギレイに見えるうちが全塗装するかどうかを判断しなくてはならない限界で、概ね新車から10年程度から、塗料が上質で、かつ管理方法が良好な場合で15年程度というあたりが大雑把な目処でしょう。

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ちなみに、内装の汚れは「洗い屋さん」に依頼すると、かなりキレイになりますし、革シートの専門屋さんもいます。破れている場合は、似た素材で補修することも可能ですし、ヘタっている場合は、ウレタンを足すこともできます。内装に関しても、様々な方法があります。前に、某イタリア車の内装を、布生地からビニル・レザー(最近のビニール・レザーはよくできています)に張り替えたところ、雰囲気がガラっと変わり、オシャレな雰囲気になりました。弊社では、作業自体は外注に出しますが、様々な内装のコーディネイトもお請けいたしております。

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本革を使った高級な内装をご希望の方は、フォックスヘッド(http://www.foxhead.co.jp/aboutus/)に作業を依頼しております。

全塗装をお考えの方は、ご相談ください。

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