あなたのクルマ、床下、大丈夫ですか?

クルマの中で、最も「後回し」にされるのが床下のようです。常に目に見える部分ではありませんし、ややもすると意識の中から消えてしまいがちです。長年にわたりレストアをしてきて、いつも感じるのは、もう少し床下に時間、あるいはお金を掛けていれば、こんな作業をしなくてもいいのに、ということです。床下やホイル・アーチ内側の保護というのは、最も「後回し」ではなく、最も優先的にしなくてはならない作業だと思います。

いやいや、僕のクルマはバッチリ、アンダー・コートが吹いてあるから、あるいは屋根付きガレージだから、と安心しておられる方も多いと思います。しかし、いくら屋根付きガレージでも湿気は浸入しますし、たとえ雨の日に乗らなくても結露は起こります。そのアンダー・コートは本当に大丈夫でしょうか?一度、リフト・アップし、先の尖ったもので突っついて詳細にチェックされることをお勧めします。とは言え、実際には我々でも剥がして見なければ分からないことが多いのですが。

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硬化する古いタイプのアンダー・コートは、シャーシが捩れてクラックが入ったり、密着が弱くなって浮いてきたりします。その隙間から毛細管現象で水が入り込み、目に見えないうちに錆びたり腐ったりします。室内のカーペットを剥がして樹脂製のハンマーで叩くと、バラバラとアンダー・コートとともに腐った鉄板が落ちる。レストアの過程では、面積の違いこそあれ、ほぼ全数にあることです。

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また、せっかくゴム質のアンダー・コートを使っていても、アンダー・コートを吹く前の下処理が悪いため、密着していない場合も多く見られます。浮いている部分を引っ張ると、一定の面積がペロっと剥がれます。
最悪なのは、アンダー・コートの下に錆止めが入っていない場合が殆どだということです。せめて錆止めとシール剤が塗布してあれば、と思います。

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アンダー・コートの入れ替えは、場所と根気さえあれば、誰でも出来ます。もちろん、プロが行う作業とアマチュアが行う作業とでは使う工具や資材が違いますので、まったく同じにはなりませんが、丁寧に根気良く作業すれば70%から80%程度の作業は可能です。

まず、場所を確保しなくてはなりません。室内(ガレージ内)でないと難しいでしょう。ただし、作業の過程で有害物質や有機物質が出ますので、風通しが良いよう、扇風機で換気するなどの処置が必要になります。
経験的に、アマチュアの方が作業されたら、週に1日作業するとして、延べ8日から2週間ぐらいだと思いますので、概ね2ヶ月から3ヶ月程度は掛かるとお考えください。もちろん、長い休みが取れるときに、一気に作業するというのも方法ですが。

クルマをジャッキで持ち上げて、ウマをかまします。作業はクルマの下にもぐりこんで行いますので、丈夫なウマを使い、安定した状態でセットします。クルマが落ちてきますと死にます。クリーパー(寝板とも言います)は必需品です。数千円のものですので、コレは買いましょう。ホイルを外せばセットは終了です。

セットが終わると、クルマの下にもぐりこみ、鉄製のガスケット剥がし(ノミのようなもの)でコリコリ剥がしていきます。電動工具や、小さなコンプレッサーをお持ちなら、エア・ツールもあります。単純にコリコリやるだけではハカがいきませんので、キャンプに使うコールマンのガス・バーナーで炙り、柔らかくしておいてから剥がす方法が効率的です。コールマンのガスバーナーは火力が強すぎず、高温になりにくいため、こういった作業に向いています。ただし、ガスで焼きますと有害ガスが出ますので、くれぐれも換気に注意することと、10分か15分ごとに休憩してフレッシュな空気を吸うことが大切です。あまり一気にやろうとすると、腱鞘炎にもなりかねません。かつてコレで腱鞘炎になり、風呂で風呂桶が持てなくなったことがありました。

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ひたすら、コリコリを繰り返すわけですが、パネルの合わせ目などは、特に念入りに作業しなくてはなりません。場所によっては千枚通しでほじくり出します。

錆や腐りを発見した場合は、鉄ブラシで錆を落とすか、腐っている場合は板金屋さんで切り継ぎをしてもらうと良いでしょう。上から何かを貼って、というのは絶対にお勧めしません。目に見えなくなりますが、腐りは癌のようなものですので、僅かな湿気でも進行します。いくら上から完璧に蓋をしたつもりでも、ごく僅かな隙間から水や湿気が浸入したり、裏側からの水や湿気で腐りが進行します。千枚通しのようなもので突っつき、下からすぐにキレイな鉄板が出てくれば錆。下も茶色なら腐りと判断すれば良いでしょう。

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朝から晩まで休み休み作業して、1日にホイル・ハウス1個、ぐらいでしょうか。一気に全部やらず、部分的に剥がしては錆止めを塗布し、という作業を積み重ねるのが良いと思います。

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アンダー・コートを剥がしたあとは、シンナーやシリコン・オフで油分を飛ばし、錆止めを塗布します。様々な錆止めが市販されていますが、手っ取り早く作業するのであれば、缶スプレーのプラサフを吹くだけでも、そこそこの効果はあります。くれぐれも、鉄板が出たまま放置しないことが大切です。
実際にやってみると、まるで「行」のような作業の連続ですが、根気良く続ければ、いつかは終了します。ただし、僕も何台か自分でやりました。知人・友人もやった経験がありますが、一度やると、二度とやりたくない、と思うものですし、お金を払うことの意味がよく分かります。いまの世の中、自分で出来ないことだけでなく、自分がやりたくないことに対しても、お金を支払うものです。とはいえ、真剣にクルマのことを考えれば、誰しも「一度は通る道」でもあります。

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全体に錆止めを塗布したあとは、パネルの継ぎ目にシール剤を充填します。あとから塗料が塗れるタイプの変成シリコンを使います。あとから塗料が塗れないタイプは密着が悪いため、そのうえからアンダー・コートを塗布すると剥がれてきます。市販品は何が良いのか、使ったことがありませんし、次々と新製品が出ますので、よく分かりません。ネットで調べて、メーカーのお客様相談室に問い合わせてみてはいかがでしょう。
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いよいよアンダー・コートの吹き付けです。硬化するタイプではなく、ゴム質のものを選びましょう。ゴム質なら、シャーシが捩れても割れてくることはありません。密着さえ良ければ、伸び縮みしてくれます。一度に厚吹きしないのがポイントです。また、アンダー・コートが他の部分に飛ばないよう、念入りにマスキングしなくてはなりません。ここで手を抜くと、あとでヒドイ目に逢います。

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ちなみに、弊社ではアンダー・コート剥がしはリフトに乗せて行います。そのほうが効率的だからです。錆止めは創業以来、シッケンズのEPを使っています。プライマーですが、水を殆ど通しませんので、錆止めとしても強力です。実際に20年以上経過したパネルでも、塗布した裏側から錆びてくることはあっても、塗布した面からは錆びてきません。もちろん、塗布する前に錆や腐りを除去しておくことが前提です。シール剤は、ソーラーというメーカーの585というシール剤を使っています。またアンダー・コートは住友3Mのボディ・シュッツを使っています。ゴム・ベースでノンアスベスト・タイプです。最近は2液でゴム質のものも出ていますが、いまのところ、経験的にボディシュッツに不満が無く、細部やカドの内側に密着するよう最初は溶剤で薄めて吹き、乾燥後、原液を吹くという使い方が出来ますので、使い続けています。

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シッケンズのEPは強力ですが、2液性のうえスプレー・ガンで吹かなくてはならず、一般の方が使用するのは不可能だと思います。ソーラーのシール剤と住友3Mのボディ・シュッツ(缶スプレー)はネットからでも購入できます。

プロに依頼すると、面積や状態、あるいは剥がす部分の形状によって作業時間に何倍かの差が出ますので、一概においくらぐらいということは出来ませんが、キチンと真面目に作業すれば、少なくとも1日や2日で終わる作業ではありません。ということは、使用する資材の価格を考えますと、最低でも15万円ぐらいは掛かるということではないでしょうか。個人でやっても、資材だけで数万円は考えておかなければならないと思います。鋼管フレームがあって手が入りにくかったりすると、剥がすだけでも1週間以上掛かった、なんてことも実際にありました。

コレを高いと感じるか、安いと感じるかはご自分で作業してみられると実感されると思いますが、錆や腐りが進行しますと、修復するのに必要になる費用は、少なくとも、この何倍かになると思います。

いずれにしても、プロに依頼するのであれば、よほど信頼の置けるショップでない限り、剥がした時点で必ず見に行くべきです。新しいアンダー・コートを吹かれてしまうと、手を抜かれても分かりませんからね。こういった、あとから目で見ても分からくなる作業は価格だけで選ぶものではありません。何年か後に後悔しても手遅れですから。

一般的に、同じ作業でもプロに依頼するのとアマチュアがするのとでは、内容や結果に大きな違いがありますが、この作業には、それほど大きな差はありません。要するに、手間仕事なのです。自分でやったことのない人には実感がないと思いますが、「自分でやった」と言えば、経験のある方には「スゴイ!」と言っていただき、仲間として受け入れてもらえると思います。

どれだけボディの表面がキレイでも、床やフレームが腐っていれば、クルマとしてダメです。真剣に考えて見られることを強くお勧めします。